胃腫瘍の早期病変における分子遺伝学的研究

日本では内視鏡による検査・治療が他国に比べて進んでおり、早期段階で治療される胃腫瘍が増加しています。そのなかには、低異型度の病変として発生して徐々に悪性度を増していく腫瘍もあれば、比較的悪性度が低いまま経過していく腫瘍もあります。こういった臨床病理学的な差異に直結するゲノム異常を解明すべく、私達は、国立がん研究センター研究所のがんゲノミクス研究分野(分野長: 柴田龍弘先生)、東大病院消化器内科(教授: 小池和彦先生)との共同研究を進めてきました。直近の成果としては、分化型の胃粘膜内腫瘍のシークエンス研究があります。とくに小型の病変を対象としてターゲットDNAシークエンスを行い、体細胞変異が蓄積されていく順番にも着眼して解析を行いました。その結果、APC変異ないしTP53変異が多くの症例で「最初に入る変異」であることを明らかにし、これらの変異が良性/悪性の性質を初期に運命づけている可能性があることを示しました。興味深いことに、これらのドライバー変異は病理組織像とも相関があったため、変異の存在を反映させた日常病理診断を実現できるよう、検討を続けています。

その他にも、分子遺伝学的プロファイルが未だ十分に解明されていない、ユニークな組織型を呈する胃腫瘍や、ユニークな臨床的背景を持つ胃腫瘍が、少なからずあると私達は感じており、今後も重要な研究成果を発信し続けていきたいと考えています。

<参考文献>

  1. Rokutan H, Abe H, Nakamura H, Ushiku T, Arakawa E, Hosoda F, Yachida S, Tsuji Y, Fujishiro M, Koike K, Totoki Y, Fukayama M, Shibata T. Initial and crucial genetic events in intestinal-type gastric intramucosal neoplasia. J Pathol. 2019 Apr;247(4):494-504.